税効果会計の基本的な仕組み~繰延税金資産と繰延税金負債~

一時差異ごとの個別の説明は次回以降に譲るとして、ここでは税効果会計の基本的な仕組みについて解説します。抽象的で少し難しいかもしれませんが、このページの内容を理解していればこれからの学習がぐっと楽になります。

繰延税金資産とは

将来の課税所得を減少させる一時差異(将来減算一時差異)がある場合、「将来の利益>将来の課税所得」ということになり、当期においては逆に「当期の利益<当期の課税所得」という関係になります。

「なんでそうなるの?」と思った人はこちら。

税効果会計の基礎知識~一時差異と永久差異、将来減算一時差異と将来加算一時差異~ 税効果会計の基礎知識~一時差異と永久差異、将来減算一時差異と将来加算一時差異~

当期の処理

SHIBUYA
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実効税率は40%と仮定して説明していきます。

考え方

繰延税金資産とは

「当期の利益<当期の課税所得」ということは、「会計上の税金(費用)<税法上の税額(実際の支払額)」となるので、税引前当期純利益と法人税等を対応させるためには税法上の税額を減少させる調整をします

MEMO
すでに学習したように、実際には税引前当期純利益に調整計算を加えて課税所得を算定します。ただ「益金ー損金」で表した方が分かりやすいと思うので、以後はこの形で説明していきます。

仕訳のやり方

法人税等調整額という勘定科目を用いて、法人税等の金額を調整します。


手順1
法人税等調整額の記入

(借)

(貸)法人税等調整額 20


法人税等を費用(借方)と考えた場合、それを減額するので貸方に法人税等調整額を記入します。


手順2
繰延税金資産の記入

(借)繰延税金資産 20

(貸)法人税等調整額 20


次に、空いている借方に繰延税金資産を記入します。


よって、将来の課税所得を減少させる一時差異がある場合の仕訳は次のようになります。

借方科目金額貸方科目金額
繰延税金資産20法人税等調整額20

繰延税金資産の性格
一時差異は収益・費用と益金・損金の計上期間が異なるだけのものなので、全体期間を通じた会計上の税金(費用)と税法上の税額(実際の支払額)は同じになります。

しかし当期において将来減算一時差異が生じた場合、税効果会計を適用することにより会計上の税金に比べ、実際に支払う法人税等の方が多くなります。

これは将来の法人税等を前払いしたものとみなすことができ、これを繰延税金資産として貸借対照表に計上します。

SHIBUYA
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前払費用が資産となるのと同じ理屈です。前払税金というようなイメージですね。

将来の処理(差異が解消したとき)

考え方

差異が解消したときは「将来の利益>将来の課税所得」となるので、「会計上の税金(費用)>税法上の税額(実際の支払額)」となります。

繰延税金資産とは

したがって、税引前当期純利益と法人税等を対応させるために税法上の税額を増加させる調整をします

一時差異が解消したときは、会計上の税金(費用)より税法上の税額(実際の支払額)が、過去に繰延税金資産として計上していた金額(法人税等の前払額)だけ小さくなります。

仕訳のやり方


手順1
法人税等調整額の記入

(借)法人税等調整額 20

(貸)


法人税等を費用(借方)と考えた場合、それを増額するので借方に法人税等調整額を記入します。


手順2
繰延税金資産の記入

(借)法人税等調整額 20

(貸)繰延税金資産 20


差異が解消したときに税金の前払額である繰延税金資産を取り崩すので、貸方は繰延税金資産となります。


よって、差異が解消したときの仕訳は次のようになります。

借方科目金額貸方科目金額
法人税等調整額20繰延税金資産20

繰延税金負債とは

将来の課税所得を増加させる一時差異(将来加算一時差異)がある場合、「将来の利益<将来の課税所得」ということになります。これは、当期において「当期の利益>当期の課税所得」という関係にあります。

当期の処理

考え方

繰延税金負債とは

「当期の利益>当期の課税所得」ということは、「会計上の税金(費用)>税法上の税額(実際の支払額)」となるので、税引前当期純利益と法人税等を対応させるために税法上の税額を増加させる調整をします

仕訳のやり方


手順1
法人税等調整額の記入

(借)法人税等調整額 20

(貸)


法人税等を費用(借方)と考えた場合、それを増額するので借方に法人税等調整額を記入します。


手順2
繰延税金負債の記入

(借)法人税等調整額 20

(貸)繰延税金負債 20


次に、空いている貸方に繰延税金負債を記入します。


よって、将来の課税所得を増加させる一時差異がある場合の仕訳は次のようになります。

借方科目金額貸方科目金額
法人税等調整額20繰延税金負債20

繰延税金負債の性格
一時差異は収益・費用と益金・損金の計上期間が異なるだけのものなので、全体期間を通じた会計上の税金(費用)と税法上の税額(実際の支払額)は同じになります。

しかし当期において将来加算一時差異が生じた場合、税効果会計を適用することにより会計上の税金に比べ、実際に支払う法人税等の方が少なくなります。

これは将来の法人税等の未払いとみなすことができ、これを繰延税金負債として貸借対照表に計上します。

将来の処理(差異が解消したとき)

考え方

差異が解消したときは「将来の利益<将来の課税所得」となるので、「会計上の税金(費用)<税法上の税額(実際の支払額)」となります。

繰延税金負債とは

したがって、税引前当期純利益と法人税等を対応させるために税法上の税額を減少させる調整をします

一時差異が解消したときは、会計上の税金(費用)より税法上の税額(実際の支払額)が、過去に繰延税金負債として計上していた金額(法人税等の未払額)だけ大きくなります。

仕訳のやり方


手順1
法人税等調整額の記入

(借)

(貸)法人税等調整額 20


法人税等を費用(借方)と考えた場合、それを減額するので貸方に法人税等調整額を記入します。


手順2
繰延税金負債の記入

(借)繰延税金負債 20

(貸)法人税等調整額 20


差異が解消したときに税金の未払額である繰延税金負債を取り崩すので、借方は繰延税金負債となります。


よって、差異が解消したときの仕訳は次のようになります。

借方科目金額貸方科目金額
繰延税金負債20法人税等調整額20

繰延税金資産(負債)の表示方法

繰延税金資産は固定資産(投資その他の資産)の区分に表示し、繰延税金負債は固定負債の区分に表示します。

なお、繰延税金資産と繰延税金負債の両方が発生した場合は、貸借対照表上、相殺してどちらか一方を表示します