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日商簿記2級(第156回)出題の意図と講評

日商簿記2級(第156回)出題の意図と講評

第1問の「出題の意図と講評」

出題の意図

本問は、取引の仕訳を求める問題です。いずれも基本的で標準的な仕訳問題です。

1は、手形の償還請求の取引です。償還請求を行った金額に注意して仕訳を行うことが、1つのポイントとなります。

2は、一部代金の支払免除を受けた掛代金の決済取引です。支払免除を受けることになった理由に注意して仕訳を行うことが、ポイントとなります。

3は、貸倒引当金の設定に伴う税効果会計の適用にかかわる決算取引です。税効果会計の基本について正確に理解しているかどうかを問う仕訳問題です。

4は、火災による建物の焼失と、それに伴う火災保険金の請求取引です。当期の減価償却費を追加計上し、仕訳に的確に反映させることも、1つの重要なポイントになります。

5は、株式会社の増資の取引です。申込証拠金をすでに受け取っている点に注意して仕訳を行うことが、1つのポイントとなります。

講評

本問は基本的で標準的な仕訳問題であるとともに、3の税効果会計にかかわる問題を除いて、従来から2級の出題範囲に含まれている典型的な仕訳問題でしたが、正答できていなかった答案が比較的多かった印象です。出題範囲が拡大している影響もあるのか、土台となる基礎的な学習領域について基本的な知識や理解が明らかに不足していると思われる答案が多くありました。

また、これに関連して特に目立っていたのは、問題文で明示されている条件や内容を十分に読まず(確認せず)、誤答しているケースでした。選択肢として示されているものとは異なる勘定科目を用いて仕訳を答えていたり、問題文の取引内容を無視して仕訳を答えていたりする答案が結構ありました。さらに、時間配分を間違えたことの影響もあるのか、白紙の答案も多くありました。

いずれにしても、基礎的な学習を地道に丁寧に行い、それを土台として系統立てて学習内容を拡大・発展させていくという学習への取組み(学習態度)が不可欠ではないかと思われます。

第2問の「出題の意図と講評」

出題の意図

本問は、期首の投資有価証券の明細の資料と、当期中の投資有価証券の取引資料に基づいて、満期保有目的債券とその他有価証券に関する仕訳を起こせるかを試すものでした。中規模以上の企業の経理組織においては、例えば、預金関係、有価証券関係、売掛金関係、固定資産関係といった形で、担当者に分担させていることが多いようです。本問では、受験者が有価証券関係の担当となった場合を念頭に、1事業年度に経験する満期保有目的債券とその他有価証券についての重要な取引の仕訳を正しく作成することができるかどうかのスキルを問うています。

重要な取引は、満期保有目的債券については、前期繰越の処理、当期の新規取得の処理、有価証券利息の入金処理、償却原価法の処理等が含まれます。また、その他有価証券については、前期繰越の処理、期首の評価差額の洗替処理、当期の新規取得の処理、期中の売却取引処理、有価証券利息等が含まれます。それぞれの取引について必要な会計ルールの知識はいずれも2級レベルの基本的なものばかりですが、1事業年度を通じて有価証券関係の経理処理を任されたと想定した場合には、これらをすべて理解していることが必要となります。購入取引だけ、売却取引だけ、あるいは、経過利息の計算だけ担当するといったことは、まずないものと思われます。

問題文の資料が多いという第一印象を持たれたかもしれませんが、資料が上記のどの重要な取引に関連するかを考えながら、1個1個の計算と仕訳を丁寧にやっていけば、正解に到達できる問題でした。今回も、検定試験終了後に行われた受験指導校のWeb解説を視聴させていただきました。有価証券取引や連結の会計ルールや経理実務に対する理解が不足しているせいか、やや的外れな解説に終始していたケースも一部でありましたが、資料を整理して仕訳を1つ1つ切っていけば対応できる(ただし有価証券利息の算出がやや難しい)という理解が概ねされているようでした。

講評

「出題の意図」に記載したように、本問で必要なのは、受験者が有価証券関係の担当となった場合に、1事業年度に経験する満期保有目的債券とその他有価証券についての重要な取引の仕訳を正しく作成できるスキルです。したがって、有価証券関係の一部の取引パターンだけに思い込みで山を張っていた受験者は、対応が難しかったと思われます。実際に答案を拝見すると、全体で3-4割の得点の者が多く、また、合格者の本問の得点は少なくとも4-5割以上が必要であったようです。得点1割以下が相当数見られる一方で、7割以上(満点を含む)の得点の者も相当数あり、計算力の差が出ているようでした。

個別の項目に目を向けると、満期保有目的債券勘定の記入、その他有価証券の前期繰越、のれんの金額の算定はよくできていたようでした。一方で、その他有価証券の次期繰越や期末のその他有価証券評価差額金の算定まで、行き着いた受験者は少なく、これが高得点をとれたかどうかの分かれ目になったようでした。また、計算量の多い問2の「有価証券利息」も、正答が得られた受験者が少なかったようです。

実際に答案用紙の記入内容を拝見すると、問題文の目についたところだけ計算して、とりあえず、答案用紙で該当すると思われる欄に金額を記入しただけの答案が相当数見られました。[資料2]から分かるように、仕訳が必要な取引は10個ですから、問題文の情報から1つ1つ仕訳を作成していくのが、やはり高得点への早道と思われます。

有価証券取引の典型的な論点部分だけの簡単な計算を、目で追っていけば分かった気になるような指導の方法では、本問のような問題にはなかなか対応ができません。仕訳の対象となる取引の量をある程度多くして、辛抱強く計算をさせるような指導をすることも、受験者の実務能力を高めることに有用であると考えます。

第3問の「出題の意図と講評」

出題の意図

第3問は、連結貸借対照表を作成する問題でした。この問題は、下記の4点を意図して作問しました。見慣れない形式ですが、基礎力だけで合格ラインに達するよう設計しています。

1.第3問での連結会計は、3回連続で連結精算表を作成させる問題が続いていました。しかし、連結精算表とは別の形式の問題を出題することによって連結会計に関する真の理解を確かめるため、今回は連結財務諸表を作成する問題を出題することにしました。連結貸借対照表だけでなく、連結損益計算書や連結株主資本等変動計算書の作成も求めるべきではありますが、受験者の負担を軽減するために今回は連結貸借対照表に絞りました。

2.本来、連結財務諸表は、親会社の個別財務諸表と子会社の個別財務諸表の数値を合算したうえで、企業集団内部の取引や未実現損益を相殺・消去する連結修正仕訳を反映させて作成します。しかし、今回は、P社の決算整理前試算表とS社の決算整理後試算表の数値をもとにしており、P社の決算整理事項を示して決算整理を行わせていることに特徴があります。異例の形式ではありますが、あえてそのような形式を採ったのは、(1)外貨建金銭債権の換算や200%定率法による減価償却、退職給付会計、あるいはリース取引といった幅広い領域を出題することにより、受験者が試験範囲を満遍なく学習しているかを確認する必要があったこと、および(2)連結会計を苦手にしている受験生が多い中で、個別決算における基礎的な決算整理事項を修得できていれば連結会計の理解が乏しくてもある程度の得点を挙げられるように配慮したこと、の2点です。しかしながら、P社・S社の双方とも決算整理を行わせれば分量があまりにも多くなってしまうため、今回はP社のみに限定することにしました。

3.S社の当期純損益は決算整理後試算表における収益の勘定の金額から費用の勘定の金額を差し引けば容易に算出できます。しかし、この段階ではまだ決算振替仕訳が行われていませんので、繰越利益剰余金の金額は当期純損益の金額を含んでいません。すなわち、決算整理後試算表の繰越利益剰余金の数値は、前期末の残高から期中に配当を実施したことによって減少した状態を表しているということになります。このことに気付くためには簿記一巡をきちんと理解していることが必要になります。換言すれば、本問では簿記一巡に関する本質的な理解も問われています。

4.連結会計に関する学習の状況を確かめるため、従来から出題されているのれんの処理や商品に含まれている未実現利益の消去、あるいは債権債務の相殺消去に加えて、子会社の配当金の処理や、土地売却損の消去ならびにそれに伴う非支配株主持分の変動、および退職給付に係る負債の表示といった連結会計における未出題の論点を問いました。

講評

1.まず、ざっと答案用紙を拝見したところ、白紙もしくはそれに近い答案が目につきました。ほかの問題に時間を取られて本問に解答する時間が足りなくなった、あるいは連結の問題というだけで最初から解くのをあきらめてしまったのかもしれません。

6月の第155回日商簿記検定試験が新型コロナウイルス感染拡大で中止になり、試験にあまり慣れていない事情もあるのでしょうが、試験が始まったらすぐに第1問から解き始めるのではなく、いったん呼吸を整えて落ち着いて、最初に集中して問題の全体を見渡した上で、120分という制限時間をどう使うべきか戦略を練ってから解答に取り掛かってください。問題(仕事)に応じて時間という資源を適切に配分することができる能力も広い意味での実力に含まれます。その一方で、満点は取れなくても基礎的な論点を着実に積み重ねて7割前後にまで到達している答案も数多くありました。

また、今回の問題は連結貸借対照表を作成させる問題ではありますが、P社の決算整理事項が[資料2]で示されていましたので、連結会計が苦手な受験生でも個別決算の知識を基にすれば解答可能な箇所はいくつもあります。連結会計=捨て問と決めつけるのではなく、まずは冷静に問題文をよく読んでもらいたいと思います。

2.次に、残念ながら本問の得点状況は想定していた水準をかなり下回っていました。たとえば、P社の建物と備品の減価償却累計額は「各自推定」とし、定額法と200%定率法による計算力を問うたのですが、あまり芳しくありませんでした。さらに前払費用は支払リース料に係るものであるとはいえ、本来ならば3級の出題範囲の論点ですが、「毎年同額」の指示は何を意味しているのか、分かっていない答案が多数でした。

3.連結上の処理については、今回は連結貸借対照表のみを作成するということもあって、商品やのれん、あるいは未払金などの資産・負債の金額については比較的よくできていました。しかし、土地については、今回は売却益ではなく、売却損が生じているケースを出題したのですが、売却益のケースと同じように処理してしまった答案が目立っていました。また、せっかくP社の決算整理は正しくできていたのに、S社の数値を加えるのを失念してしまったために失点した人が散見されたのはたいへんもったいなかったです。

連結精算表ならできるのに、いつもと違った形式で連結財務諸表の作成になると途端にできなくなる、というのは連結会計がわかっているのではなく、連結精算表の問題の解法を覚えたにすぎません。過去の出題問題を複数回解いておくことは結構なことではありますが、出題パターンごとの解き方を丸暗記するのではなく、連結会計に関する本質的な理解を重視して日ごろから学習してほしいですし、指導に携われている方々にもその旨お願い申し上げたいと存じます。

4.本問では試算表の数値をもとに出題がされていますが、S社の決算整理後残高試算表における繰越利益剰余金の金額は、資本振替前ですので、当期純損益を含んでいません。簿記一巡の流れからすれば至極当然のことではあるのですが、このことに気が付いた受験生は全くの皆無というわけではなかったものの、極めて少数に留まりました。簿記一巡は、すでに3級の範囲で学習していたはずではありますが、これを機にもう一度ふり返っていただきたいと思います。

第4問の「出題の意図と講評」

出題の意図

本問は、個別原価計算における、勘定記入と損益計算に関する問題です。[資料]にある、様々な金額に関するデータからそれぞれの費目に該当する金額を計算し、それを仕掛品勘定へ記入し、月次損益計算書を作成することが求められています。

教科書にもあるように、工業簿記の基本として、最初の手続きである費目別計算について理解することは必要不可欠です。この問題では、最初に、[資料]に示された金額について、直接材料費、直接労務費、製造間接費のいずれに分類されるか、そして、その金額を適切に計算できることが要求されています。さらに、月次損益計算書では、製造間接費の予定配賦による差異の計算とその処理も理解しているかどうかが問われています。過去にも同様の出題があり、基礎的な費目別計算に基づく一連の手続きを学習していれば、十分に解答できる問題でした。

講評

本問は、個別原価計算における、勘定記入と損益計算書作成の基本的な問題でした。過去にも同様の出題があり、工業簿記の基礎として理解が必要な問題です。最終的な正解に至るには様々な原価の分類と計算、そして損益計算書の構造を理解する必要があります。

この問題については、答案からは、部分的には理解しているものの、最後まで正確に計算するのは大変なようでした。具体的には、材料費の分類、製造間接費の予定配賦による原価差異の処理が勉強できていない方が見受けられました。本問のような材料費、労務費、経費の費目別計算は工業簿記の学習の「入り口」として理解が必須です。それ以降の工業簿記の円滑な学習のためにも、是非とも丁寧に学習してほしいと思います。

第5問の「出題の意図と講評」

出題の意図

今回は直接原価計算からの出題であり、とくに全部原価計算との違いが理解できているかどうかを問う問題でした。直接原価計算は、全部原価計算による利益計算の不合理さを解消するために考え出された計算方法とされています。どのような不合理さがあったのかは、会話文の最後を読むとわかっていただけるのではないでしょうか。

さて、問題のほうは会話文の空欄を埋めていく形になっています。計算ができるかどうかだけでなく、その計算がどのような意味をもっているのかもあわせて考えてほしいということからこの形式をとりました。要求されている計算そのものは、直接原価計算を学習するうえで基本的な計算がほとんどです。やや難易度が高いのは⑤と⑥ですが、⑤については「生産量だけが変化しても直接原価計算の利益は変わらない」ことをわかっていれば計算しなくても答えられます。⑥は計算量が多くなりますので、⑤で時間を節約できると得点を上げやすかったと思います。

講評

全体としては高い点数がとれていました。そのなかでやはり⑤と⑥は正解率が低くなりました。⑤と⑥は[資料]に与えられた条件を変化させる問題でした。変化させるのは月間生産量だけなのですが、この変化(月間生産量4,000㎏→5,000㎏)によって、損益計算書のどの項目に影響が出るのかを正確に理解しておく必要があります。今回の問題では損益計算書そのものが与えられていませんので、そういうときにも自分で損益計算書を作成できるように学習しておくといいでしょう。

〔出題の意図〕にも書いたように、直接原価計算では損益計算書に何も変化がありません。変わるのは全部原価計算だけであり、全部原価計算のなかでも固定加工費の計算だけが変わります。この点は、直接原価計算と全部原価計算の違いのもっとも本質的な部分でもあります。直接原価計算を学習するときには、直接原価計算ができればよいということではなく、つねに全部原価計算との違いを意識して、なぜ直接原価計算が必要とされたのかを理解できるようにしてほしいと思います。