知的財産権1~著作権と産業財産権~

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ここからは法務について勉強していくっす。今回は知的財産権、いわゆる「知財」のうち、著作権と産業財産権を中心に見ていくっすよ。

ボキタロー
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知的財産権とITって何の関係があるの?

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近年ではインターネットの普及や生成AIの登場などによって知的財産権の侵害が社会問題になってるっす。ちゃんとした知識を持ってないと思わぬトラブルに巻き込まれる可能性もあるっすよ。

目標・知的財産権にはどのような種類があり,何が法律で守られ,どのような行為が違法に当たるのかの基本を理解する。
説明・コンピュータプログラムや音楽,映像などの知的創作物に関する権利は,法律で守られていることを理解する。
知的財産権の概要

知的財産権とは

知的財産権制度とは、知的創造活動によって生み出されたものを、創作した人の財産として保護するための制度です。知的財産権は大きく著作権産業財産権(及びその他の権利)に区分され、様々な法律で保護されています。

知的財産権
【引用】特許庁のホームページ

著作権

著作権は、著作物を創作した者(著作者)に与えられる、自分が創作した著作物を無断でコピーされたり、インターネットで利用されない権利です。著作者に自然発生的に与えられる権利で、著作者の死後70年で失効します。著作権は文化庁が管轄しています。

注意

著作権は、著作物を創作した時点で自然発生し、申請や登録などは必要ありません。

音楽・動画・漫画・コンピュータプログラムなど、知的創作物には著作権が発生し、無断でコピーする行為、違法にアップロードされたコンテンツと知りながらダウンロードする行為などは違法行為に当たります。

著作権の対象

著作物とは、法律上は「思想または感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術または音楽の範囲に属するもの」と定義されていますが、これだけに限定されるものではありません。

著作権の対象となるもの

  • 小説・脚本・論文・講演など、文字や言語によって表現された著作物
  • 音楽(歌詞も含む)
  • 絵画・版画・彫刻などの美術品
  • 映画・テレビ番組
  • 取扱説明書(マニュアル)
  • 写真
  • コンピュータプログラム(ソフトウェア)
  • データベース
著作権の対象となるもの

著作権の対象とならないもの

  • アルゴリズム:アルゴリズムはプログラムの手順をまとめたものであって創作性はありません。同様の理由で、時刻表なども著作権の対象外です。
  • プログラム言語:プログラムは著作権の対象ですが、プログラム言語(C言語やjavaなど自体は対象外となります。
  • プロトコル:通信規約のことです。詳しくはテクノロジ編で学習します。
  • アイデア:著作権法は「思想または感情を創作的に表現したもの」を保護する法律であるため、アイデアは保護の対象外となります。アイデアは他の法律(実用新案法など)で保護される場合があります。
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ITパスポート試験では、どれが著作権の対象になるか?といった問題がよく出題されるっすよ。

著作者人格権と著作財産権

著作権は、著作者人格権著作財産権に分類されます。

著作者人格権

著作者人格権は、著作者の人格的な利益を保護する権利で、譲渡や放棄をすることはできません

著作者人格権には次のような権利があります。

著作者人格権

公表権:著作物を公表するかどうかを決める権利。

氏名表示権:著作物に自分の氏名(ペンネーム)を表示するかどうかを決める権利。

同一性保持権:著作物の内容を他人に勝手に変えられない権利。

著作財産権

著作財産権は、著作物の財産的な利益を保護する権利です。著作者人格権と異なり他人に譲渡することができます。譲渡された人を著作権者と呼びます。

著作財産権には、複製権(複製する権利)、公衆送信権(テレビ・ラジオ・インターネットなどによる著作物を送信する権利)、 頒布権(映画の著作物を販売・貸与する権利)、 譲渡権(映画以外の著作物またはその複製物を公衆へ譲渡する権利)、 貸与権(映画以外の著作物の複製物を公衆へ貸与する権利)などがあります。

したがって、歌手や放送事業者など、著作物を様々な手段で伝達する人々にも権利が発生し、著作者(または著作権者)に無断で作品を公衆に伝達する行為は違法となります。

無断での利用が認められる主なケース

著作物を利用(複製や公開など)するには、著作権者から許可を得るのが原則です。しかし著作権法は、以下のような一定の場合には、著作物を自由に利用することができることを定めています。

  • 自分自身や家族、ごく親しい少人数の友人など限られた範囲内で使用することを目的とする複製(ただし、コピーコントロール技術を回避しての複製は違法)
  • 図書館、学校その他の教育機関における複製
  • 国・地方公共団体の機関、独立行政法人又は地方独立行政法人が発する告示、訓令、通達など、国民一般に周知徹底させることを目的とするもの
  • 正当な範囲内での引用・転載。ただし、一定の条件(すでに公表されている・公正な慣行に合致する・引用の目的上正当な範囲内で行なわれる・出所の明示をする)を満たすことが必要です
  • 試験問題としての複製
  • 営利を目的としない上演・演奏・上映・口述
  • 視覚障害者・聴覚障害者等のための複製
さらっと学習【職務著作】

会社の指示にもとづいて会社の業務に従事する者が職務上作成し、会社名義で公表されるものを職務著作といいます。職務著作の場合、著作権はそれを創作した個人(社員)ではなく法人会社に与えられます

産業財産権

産業財産権関連法規

産業財産権制度は、新しい技術、新しいデザイン、ネーミングなどについて独占権を与え、模倣防止のために保護し、研究開発へのインセンティブを付与したり、取引上の信用を維持したりすることによって、産業の発展を図ることを目的にした制度です。産業財産権は特許庁が管轄しています。

産業財産権

産業財産権は特許庁に出願し登録されることによって、一定期間、独占的に実施(使用)できる権利となります。

注意

著作権と異なり自然発生することはありません。

産業財産権には、特許権実用新案権意匠権商標権があり、それぞれ特許法実用新案法意匠法商標法という法律で保護されています。

権利内容
特許権発明の保護及び利用を図ります。ここでの「発明」とは、自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のものを意味します。なお、ビジネスモデル特許も特許法で保護されます。
実用新案権物品の形状、構造又は組合せに係る考案(アイデア)の保護及び利用を図ります。「発明」とは異なり、高度のものであることを必要としません。
意匠権意匠の保護及び利用を図ります。意匠とは物品等のデザイン(形状・模様・色彩)です。
商標権商標の保護及び利用を図ります。商標とは商品やサービスに付される目印(マーク)です。商品の商標はトレードマーク、役務(サービス)の商標はサービスマークと呼ばれます。
さらっと学習【ビジネスモデル特許】

広い意味では、ビジネス方法(儲けのしくみ)に関する発明に与えられる特許全般を指しますが、一般にはコンピュータやソフトウエアを使ったビジネス方法に関する発明に与えられる特許という意味で用いられます。例として、「ITを利用した新たな受注の仕組み」などがあります。

産業財産権

AI学習における留意点

AIの機械学習ではインターネットなどにある様々なデータを利用するため、対象となるデータの指定によっては、著作権や産業財産権といった知的財産権を侵害する可能性があります。

また、生成AIがインターネット上のイラストや音楽など学習し、それを利用した場合には、似たようなイラストや音楽が生成され著作権が侵害されたり、有名人の写真が勝手に利用されると肖像権やパブリシティ権の侵害にもなります。

そのため、AI が学習に利用するデータ、AI が生成したデータについて、それぞれ知的財産権等の観点で十分留意する必要があります。

さらっと学習【その他の権利】

明文化された法律は存在しませんが、判例によって認められた権利として次のようなものがあります。

肖像権:撮影された写真や動画などを無断で公表・利用されない権利。

パブリシティ権:有名人が、自己の氏名や肖像が商品の販売等を促進する顧客吸引力を有する場合、それを独占的に使用することができる権利。

確認○×問題

問1

著作権は、権利を取得するための申請や登録などの手続きは不要である。

答え:〇

著作権は、著作物を創作した時点で自然発生し、申請や登録などは必要ありません。一方で、産業財産権は特許庁に出願し登録されることによって、一定期間、独占的に実施(使用)できる権利となります。

問2

「データベースの操作マニュアル」、「プログラム言語」、「プログラムのアルゴリズム」は著作権法によって保護の対象となりうる。

答え:×

「データベースの操作マニュアル」は文字や言語によって表現された著作物であり保護の対象となりますが、「プログラム言語」と「プログラムのアルゴリズム」は保護の対象外となります。

問3

「原稿なしで話した講演の録音」、「時刻表に掲載されたバスの到着時刻」、「創造性の高い技術の発明」はいずれも著作権法によって定められた著作物に該当する。

答え:×

著作物とは、法律上は「思想または感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術または音楽の範囲に属するもの」と定義されています。

・「原稿なしで話した講演の録音」→言語によって表現された著作物に該当します。

・「時刻表に掲載されたバスの到着時刻」→「思想または感情を創作的に表現したもの」ではなく、また、「文芸、学術、美術または音楽の範囲に属するもの」でもないため、著作物に該当しません。

・「創造性の高い技術の発明」→「思想または感情を創作的に表現したもの」ではなく”アイデア”のため、著作物に該当しませんが他の法律(特許法など)で保護される可能性があります。

問4

以下に示す著作物の使用事例は、いずれも著作権を侵害することはなく違法性はない。

  1. 音楽番組を家庭でDVDに録画し、録画者本人とその家族の範囲内で使用した。
  2. 海外のWebサイトに公表された他人の闘病日記を著作者に断りなく翻訳し、自分のWebサイトに公開した。
  3. 行政機関が作成し、公開している、自治体の人口に関する報告書を当該機関に断りなく引用し、公立高校の入学試験の問題を作成した。
  4. 専門誌に掲載された研究論文から数行の文を引用し、その引用箇所と出所を明示して論文を作成した。

答え:×

1の事例:自分自身や家族、ごく親しい少人数の友人など限られた範囲内で使用することを目的とする複製は著作権の侵害にはなりません(著作権法第30条)。ただし、コピーコントロール技術を回避しての複製は違法となります。

2の事例:著作権者には、翻訳権・翻案権という著作物を翻訳・翻案する権利が定められています(著作権法第27条)。そのため、著作権者に無断で翻訳し、公開する行為は著作権の侵害となります

3の事例:「 国若しくは地方公共団体の機関、独立行政法人又は地方独立行政法人が発する告示、訓令、通達その他これらに類するもの」は著作権法上の保護の対象外となります(著作権法第13条)。

4の事例:一定の条件(すでに公表されている・公正な慣行に合致する・引用の目的上正当な範囲内で行なわれる・出所の明示をする)を満たした場合には、著作権者の許可を得ずに著作物を引用・転載等することが認められます(著作権法第32条第1項)

以上より、2の事例のみが著作権の侵害となります

問5

大規模で複雑なモデルの解析を高速に行うために開発された高性能コンピューターは、ビジネスモデル特許として特許法にもとづく特許権が与えられる。

答え:×

ビジネスモデル特許は、一般にはコンピュータやソフトウエアを使ったビジネス方法(儲けのしくみ)に関する発明に与えられる特許という意味で用いられます。設問の高性能コンピューターはビジネス方法に係る発明ではないため、ビジネスモデル特許ではありません。

問6

「複数の物品を組み合わせて考案した新たな製品」や「今までになかった製造方法」は、実用新案の対象となる。

答え:×

実用新案とは「物品の形状、構造又は組合せに係る考案」をいいます。

・複数の物品を組み合わせて考案した新たな製品→「物品の形状、構造又は組合せに係る考案」に該当するため、実用新案の対象となります。

・今までになかった製造方法→「物品の形状、構造又は組合せ」ではないため、実用新案の対象とはなりません。

問7

「ソフトウェア製品を収納するパッケージのデザイン」は、意匠法による保護の対象となる。

答え:〇

設問のとおりです。意匠法は物品等のデザイン(形状・模様・色彩)を保護する法律です。