さて今回は、企業のコンプライアンスなどの取組みを中心に見ていくっす。
コンプライアンスって法令順守っていう意味だっけ?
そうっす。しかし法令だけを守っていればいいというものではないんすよね。もっと広い概念なんすよ。
目標 | ・企業等の規範に関する考え方を理解し,自らの行動を律する。 ・行政機関に対する情報公開請求の基本的な考え方を理解する。 |
説明 | ・企業等の規範を明らかにするために,コンプライアンス,コーポレートガバナンスなどの取組があることを理解する。 ・関連する法律などの考え方を理解する。 ・行政機関が作成した文書の情報公開請求の考え方を理解する。 |
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コンプライアンス
コンプライアンスには「法令順守」という意味がありますが、法令だけでなく、社会的規範、モラル、倫理などを守り、公正に業務を行うという意味も含まれています。
不正会計や品質データの改ざんなど、コンプライアンス意識の欠如によって、多額の損害賠償が生じたり事業継続が困難になったりする事例もよく聞くっすね。
人権デューデリジェンスを通じて、企業が人権を守り尊重していくことを示す概念です。人権デューデリジェンスとは、人権への負の影響(強制労働やハラスメント等)を特定、防止、軽減するとともに、これら負の影響へどのように対処するかについて説明責任を果たすために企業が実施すべきプロセスをいいます。
情報倫理
特にインターネットなどにおいて、法令やモラルを守って情報を扱うという意識のことを情報倫理といい、具体的には次のようなことに注意すべきです。
- データのねつ造・改ざん・盗用
- デマ情報を拡散させるチェーンメール
- 事実と異なる情報を発信するフェイクニュース。なお、発信された情報が事実として誤りがないか確認することをファクトチェックといいます。
- 人々に不安感や嫌悪感を与え、人としての尊厳を傷つけたり、差別意識を生じさせるヘイトスピーチ
- ソーシャルメディアポリシー(ソーシャルメディアガイドライン):企業がSNSなどのソーシャルメディアを利用する際のルールや心構えを明文化したもの。
- ネチケット:ネットワークとエチケットという言葉を組み合わせてつくられた造語で、インターネットを利用する上でお互いに守るべきルールやマナー。
- エコーチェンバー:SNS等で、自分と似た興味や関心を持つユーザーが集まる場でコミュニケーションする結果、特定の意見や思想が増幅していく状態。何度も同じような意見を聞くことで、それが正しく間違いのないものであるとより強く信じ込んでしまい、他の意見を受け入れられない心情になる。
- フィルターバブル:ユーザーの好みを学習したアルゴリズムによって、そのユーザーが好む情報ばかりがやってくるような環境のこと。目にする情報が偏ってしまい、結果として、考え方や価値観が偏る恐れがあります。
- デジタルタトゥー:インターネット上で公開された書き込みや個人情報などが一度拡散してしまうと、完全に削除するのが不可能であり、半永久的にインターネット上に残ること。
プロバイダ責任制限法
プロバイダ責任制限法とは、プロバイダ等の損害賠償責任の制限、発信者情報の開示請求等について定めた法律です。
インターネット上で誹謗中傷を受けたり個人情報が不当に公開されたりした場合に、被害者がプロバイダ事業者などに対して、これを削除するよう要請することができます。
事業者側はこの要請にこたえて情報を削除することで、損害賠償の責任を免れるということを定めています。また、プロバイダ事業者に対して、権利侵害の情報発信元の情報開示請求ができることも規定しています。
ただし、表現の自由などの発信者の権利を保護するため、開示請求を受けたプロバイダ事業者は開示するかどうか、(発信者と連絡することができる場合は)発信者に意見を聞かなければなりません。
組織やサービス提供者によって保存されている個人データの削除・消去等を求める権利です。EUの一般データ保護規則(GDPR)の下で与えられた法的権利ですが、日本ではこれを明文化した法律はありません。
コーポレートガバナンス
顧客や市場などから信頼を獲得するための経営活動の健全化を目的とした取組みをコーポレートガバナンス(企業統治)と呼びます。その主な取り組みとしては次のようなものがあります。
- 経営陣による不正や不祥事を防止する(→独立性の高い社外取締役や社外監査役の設置など)
- 社員による不正や不祥事を防止する(→従業員に対して行動規範の教育を行うなど)
- 透明性の高い経営を確保して不正やリスクを防止する(→利害関係者に対する情報開示など)
- 中長期的な企業価値を向上させる
- ステークホルダーの利益を守る
公益通報者保護法は、国民生活の安心や安全を脅かすことになる事業者の法令違反の発生と被害の防止を図る観点から、公益のために事業者の法令違反行為を通報した事業者内部の労働者に対する解雇等の不利益な取扱いを禁止する法律です。これによって、企業のコンプライアンス強化が期待できます。
公益通報者保護法における「労働者」には、正社員だけでなくバイト・パート・派遣労働者なども含まれます。
公益通報の条件としては次のようなものがあります。
- 通報者が通報の対象となる事業者へ労務提供している労働者であることのほか、必要と認められるその他の者
- 通報に不正の目的がないこと
- 法令違反行為が生じ、又はまさに生じようとしていること
- 通報内容が真実であると証明できること
情報公開法(行政機関の保有する情報の公開に関する法律)は、行政機関が作成・保有する全ての行政文書を対象として、誰でもその開示を請求することができる権利を定めた法律です。
確認○×問題
企業が社会の信頼に応えていくために、法令を遵守することはもちろん、社会的規範などの基本的なルールに従って活動する、いわゆるコンプライアンスが求められている。次にあげる事項はすべてコンプライアンスとして考慮しなければならない。
- 交通ルールの遵守
- 公務員接待の禁止
- 自社の就業規則の遵守
- 他者の知的財産権の尊重
(出典:令和2年度秋期分 問2 一部改変)
答え:〇
- 交通ルールの遵守:道路交通法上、守らなければならないのは当然です。
- 公務員接待の禁止:国家公務員は、法令により利害関係のある事業者から接待を受けることが、原則として禁止されています。
- 自社の就業規則の遵守:コンプライアンスには法令だけでなく、社会的規範、モラル、倫理などを守り、公正に業務を行うという意味も含まれています。したがって、社内規則を遵守させることも含まれます。
- 他者の知的財産権の尊重:知的財産権は法律で保護されています。
以上より、設問の事項はすべてコンプライアンスとして考慮しなければなりません。
ユーザーの好みを学習したアルゴリズムによって、そのユーザーが好む情報ばかりがやってくるような環境に包まれることで、目にする情報が偏ってしまい、結果として、考え方や価値観が偏ってしまうことをエコーチェンバーという。
答え:×
設問はフィルターバブルの説明です。
エコーチェンバーとは、SNS等で、自分と似た興味関心を持つユーザーが集まる場でコミュニケーションする結果、特定の意見や思想が増幅していく状態をいいます。何度も同じような意見を聞くことで、それが正しく間違いのないものであるとより強く信じ込んでしまい、他の意見を受け入れられない心情になってしまいます。
プロバイダが提供したサービスにおいて発生した以下の事例1~3はすべて、プロバイダ責任制限法によって、プロバイダの対応責任の対象となり得る。
- 氏名などの個人情報が電子掲示板に掲載されて、個人の権利が侵害された。
- 受信した電子メールの添付ファイルによってマルウェアに感染させられた。
- 無断で利用者IDとパスワードを使われて、ショッピングサイトにアクセスされた。
(出典:令和3年度春期分 問17 一部改変)
答え:×
プロバイダ責任制限法は、インターネット上で誹謗中傷を受けたり個人情報が不当に公開されたりした場合に、被害者がプロバイダ事業者などに対して、これを削除するよう要請することができる権利です。
1の事例:不特定多数が閲覧できる電子掲示板で個人情報が不当に公開された場合はプロバイダ責任制限法にもとづき、削除要請があれば、プロバイダは対応する責任があります。
2の事例:刑法のウィルス作成罪の規制対象です。
3の事例:不正アクセス禁止法の規制対象です。
以上より、事例1のみがプロバイダ責任制限法によって、プロバイダの対応責任の対象となり得ます。
コーポレートガバナンスを強化するために、独立性の高い社外取締役の人数を増やした。
(出典:令和6年度春期分 問18 一部改変)
答え:〇
独立性の高い社外取締役を増やして監視を強化し、経営陣による不正や不祥事を防止したり、取締役会の実効性を確保することは、コーポレートガバナンスを強化するため取組みといえます。
公益通報者保護法が保護の対象としている「労働者」に該当するものはその会社の正社員のみであるため、アルバイト・パートタイマー・派遣労働者は保護の対象とならない。
(出典:平成29年度春期分 問12 一部改変)
答え:×
公益通報者保護法が保護の対象としている「労働者」は、「事業者へ労務提供している労働者」であるため、正社員以外にも、アルバイト・パートタイマー・派遣労働者なども含まれます。
国会などの立法機関が作成・保有する立法文書、および最高裁判所などの司法機関が作成・保有する立法文書は、情報公開法に基づいて公開請求することができる文書である。
(出典:令和4年度春期分 問13 一部改変)
答え:×
情報公開法に基づいて公開請求することができる文書は、行政機関が作成・保有する行政文書です。