手形取引①~偶発債務の処理~

偶発債務とは?

SHIBUYA
SHIBUYA

日商簿記2級講座では手形の割引や裏書を学習しましたが、その手形が決済されずに不渡りになるとだれが責任を負うのでしたっけ?

ボキタロー
ボキタロー

手形を割り引いたり裏書きした人が責任を負って、代わりに支払わないといけないんだよね。理不尽な話だよ。

SHIBUYA
SHIBUYA

はい。そのような「現在ではまだ現実の債務ではないが、将来一定の事実が発生した場合に現実の債務となるもの」を偶発債務というんです。

手形を裏書(割引)したときに、「もしかしたら将来債務になるかもしれない」ということを忘れないように、帳簿上で備忘記録をすることがあります。

そのための方法として、対照勘定法評価勘定法の2つがあります。

対照勘定法

手形を裏書(割引)したとき

例題1

工事未払金¥10,000について、当社宛ての約束手形を裏書譲渡して支払った。なお、裏書に伴う偶発債務は対照勘定を用いて処理する。

対照勘定法では、受取手形を減少させるとともに偶発債務の存在を備忘記録するため、「手形裏書義務見返」「手形裏書義務」という対照勘定を用いて処理します。なお、対照勘定の金額は裏書譲渡した受取手形と同額とします

借方科目金額貸方科目金額
工事未払金10,000受取手形10,000
手形裏書義務見返10,000手形裏書義務10,000

「もし不渡りになったら代わりに支払わないといけない」という義務を負うので貸方は「手形裏書義務」となります。複式簿記では貸借が一致する必要があるので、その相手(借方)に「見返」を記入する、といったイメージで覚えてください。

SHIBUYA
SHIBUYA

保証債務については問題に指示がある場合のみ考慮してください。保証債務についての言及がない場合は無視して構いません。

MEMO

割引の場合は「手形割引義務見返」「手形割引義務」となります。

【参考】対照勘定とは?

対照勘定とは借方項目と貸方項目の2つが1セットで対になっているような勘定科目で、主に帳簿上で備忘記録をする際などに用いられる勘定です。

手形が無事決済されたとき

例題2-1

かねて裏書譲渡していた約束手形¥10,000が決済されたとの報告を受けた。なお、裏書に伴う偶発債務は対照勘定を用いて処理している。

手形が決済されて偶発債務が無くなったときは、裏書時に計上していた対照勘定を取り消します。

借方科目金額貸方科目金額
手形裏書義務10,000手形裏書義務見返10,000

手形が不渡りになったとき

例題2-2

かねて裏書譲渡していた約束手形¥10,000が不渡りとなったので、同額の小切手を振り出して買い戻した。なお、裏書に伴う偶発債務は対照勘定を用いて処理している。

裏書(割引)している手形が不渡りとなったときはこれを買い戻すとともに、決済されたときと同様に対照勘定を消滅させます。買い戻した手形は不渡手形勘定で処理します。

借方科目金額貸方科目金額
不渡手形10,000当座預金10,000
手形裏書義務10,000手形裏書義務見返10,000
MEMO

償還請求に伴う諸費用(支払拒絶証書作成費用や延滞利息など)がある場合は不渡手形勘定に含めます。

評価勘定法

手形を裏書(割引)したとき

例題3

工事未払金¥10,000について、当社宛ての約束手形を裏書譲渡して支払った。なお、裏書に伴う偶発債務は評価勘定を用いて処理する。

裏書に伴う偶発債務について評価勘定を用いる方法の場合は、受取手形を直接減少させずに裏書手形」という評価勘定を用いて処理します。

借方科目金額貸方科目金額
工事未払金10,000裏書手形10,000
MEMO

割引の場合は「割引手形」という評価勘定を使います。

SHIBUYA
SHIBUYA

評価勘定とは、ある特定の資産の実質的な価値を表すため、その資産の価値を間接的にマイナスするための勘定です。

ボキタロー
ボキタロー

減価償却累計額や貸倒引当金と同じだね。

SHIBUYA
SHIBUYA

ちなみに貸借対照表上は受取手形から直接控除し、裏書譲渡高や割引高について注記(注意書きのようなもの)をします。

手形が無時決済されたとき

例題4-1

かねて裏書譲渡していた約束手形¥10,000が決済されたとの報告を受けた。なお、裏書に伴う偶発債務は評価勘定を用いて処理している。

手形が決済されて偶発債務が無くなったときは「裏書手形」を取り消すとともに「受取手形」減少させます。

借方科目金額貸方科目金額
裏書手形10,000受取手形10,000

手形が不渡りになったとき

例題4-2

かねて裏書譲渡していた約束手形¥10,000が不渡りとなったので、同額の小切手を振り出して買い戻した。なお、裏書に伴う偶発債務は評価勘定を用いて処理している。

決済されたときと同様に、「裏書手形」を取り消すとともに「受取手形」減少させます。

借方科目金額貸方科目金額
不渡手形10,000当座預金10,000
裏書手形10,000受取手形10,000
ボキタロー
ボキタロー

ふむふむ。評価勘定法では手形が決済されたり不渡りになったときに、はじめて「受取手形」が減少するんだね。