サービス業の処理1~一時点で充足される履行義務~

これまでは具体的な形の有るモノを売買する商品売買業について学習してきましたが、世の中には形のない「サービス」を提供することで収益を得る業種もあります。このような業種の場合、どのように仕訳をすればいいのでしょうか?

履行義務の充足とサービス業

履行義務の充足とは?

収益認識基準では「履行義務を充足した時または充足するにつれて収益を認識する」とあります。これについては、商品販売や1回で提供が終わるサービスのような一時点で充足される履行義務と、継続的に提供されるサービスのような一定の期間にわたり充足される履行義務に分けることができます。

すでに学習したように、一時点で充足される履行義務のうち商品販売では出荷基準・着荷基準・検収基準などで収益を認識しますが、このページではサービス業の処理について学習します。

履行義務の概要
MEMO

本来、「一時点で充足される履行義務」と「一定の期間にわたり充足される履行義務」のどちらに該当するかはいくつかの事項に照らし合わせて慎重に判断すべきこととされていますが、2級ではそこまで要求されません。問題文で明示されるか容易に判断できるような出題となります。

SHIBUYA
SHIBUYA

一定の期間にわたり充足される履行義務については次回学習します。

サービス業とは?

物品の販売ではなく、サービス(役務(えきむ))を提供することで収益を得る業種のことをサービス業といいます。サービス業には、教育、宅配、運送・輸送、修理・補修、理容、クリーニングなど様々な業態があります。

サービス業の基本的な処理方法

費用が発生した時

例題1

当社は簿記の受験教室を経営している。来月開催予定の体験教室のための教材制作費用として30,000円を現金で支払った。この費用は体験教室のために直接費やされるものであることが明らかなため、これを仕掛品で処理する。

借方科目金額貸方科目金額
仕掛品30,000現金30,000
MEMO

工業簿記を学習した人ならお分かりだと思いますが、仕掛品勘定は「作り掛けのもの」にかかった費用(原価)を集計しておくための勘定です。

費用は収益を獲得するための”犠牲”となるものです。そのため、会計では収益が計上されたときに、その”犠牲”となった費用を対応させて計上すべきというルールになっています(これを「費用収益対応の原則」といいます)。

MEMO

理論的な話になるので詳しく説明しませんが、費用と収益を対応させて表示しないと、財務諸表の期間比較可能性が損なわれたり、利益操作が可能になるといった問題があるのです。

この原則からいうと、サービスの提供による”売上高”が計上されていない段階で、それに対応する”売上原価”だけを計上することはできません。

そこで支払った金額のうち、サービスの提供に直接費やされるものであることが明らかな部分を仕掛品(しかかりひん)勘定(資産)で処理しておきます。

サービスを提供したとき

例題2

体験教室を開催し、受講者らから受講料50,000円を現金で受け取った。

サービスの提供を行った時に、役務収益を計上するとともに仕掛品勘定の金額を役務原価へ振り替えます。

借方科目金額貸方科目金額
現金50,000役務収益50,000
役務原価30,000仕掛品30,000
MEMO1

役務収益は商品売買業の売上に相当するものであり、役務原価は売上原価に相当するものです。

MEMO2

役務収益は「営業収益」などの勘定科目で処理する場合もあります。

その他のケース(参考)

いったん費用の科目を計上する場合

支払時には費用の科目で処理しておき、そのあとでサービスの提供に直接費やされるものであることが明らなものを仕掛品勘定へ振り替える場合もあります。

例題3-1

当社は簿記の受験教室を経営しており、講師に給料200,000円を現金で支払った。

借方科目金額貸方科目金額
給料200,000現金200,000
例題3-2

例題3-1の給料のうち50,000円は、来月開催予定の体験教室のために直接費やされるものであることが明らとなったため、これを仕掛品へ振り替える。

借方科目金額貸方科目金額
仕掛品50,000給料50,000

役務収益と役務原価がほぼ同時に発生する場合

役務収益と役務原価がほぼ同時に発生する場合は、仕掛品勘定を経由せずに直接、費用を役務原価へ振り替える場合もあります。

例題4

当社では簿記の家庭教師の派遣をしている。本日、顧客へのサービス提供の対価として3,000円を現金で受け取った。なお、この顧客の自宅までの交通費1,000円は現金で支払った。

交通費の支払い

借方科目金額貸方科目金額
旅費交通費1,000現金1,000

役務収益・役務原価の計上

役務収益を計上するとともに旅費交通費を直接、役務原価勘定へ振り替えます。

借方科目金額貸方科目金額
現金3,000役務収益3,000
役務原価1,000旅費交通費1,000
復習問題

2級仕訳問題集part.1のQ1-18~Q1-19を解きましょう!