建設業における勘定連絡図~費目別仕訳法と代表科目仕訳法~

製造業との勘定科目の違い

製造業と建設業では、その特徴などが異なることから使用する勘定科目が少し異なります。ただし意味はほぼ同じなので、単純に製造業の科目を置き換えて考えれば大丈夫です。

損益計算書の科目

【製造業】【建設業】
売上高完成工事高
売上原価完成工事原価

建設業では完成した工事はすぐに発注者へ引き渡されるので、製造業のように「製品が売れるまで一時的に保管しておく」ということは基本的にありません。

つまり「完成=売上」となるので、「売上高」「売上原価」ではなく「完成工事高」「完成工事原価」となります。

ボキタロー
ボキタロー

「売上」を「完成工事」に置き換えればいいだけだね。

貸借対照表の科目

【製造業】【建設業】
売掛金完成工事未収入金
仕掛品未成工事支出金
買掛金工事未払金
前受金未成工事受入金
  • 完成工事未収入金:完成した工事に対してまだ受け取っていない代金。つまり売掛金のことです。
  • 未成工事支出金:まだ完成していない工事に対して支出した原価。つまり仕掛品のことです。
  • 工事未払金:工事にかかった金額のうちまだ支払っていないお金。つまり買掛金のことです。
  • 未成工事受入金:まだ完成していない工事に対して受け取った代金。つまり前受金のことです。
SHIBUYA
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最初のうちは違和感があると思いますが、勉強していくと自然に慣れてきます。それでは次に、建設業における一連の仕訳と勘定連絡(原価の流れ)を見ていきましょう。

建設業における一連の処理

材料の購入および各費用の支払いの仕訳

例題1

当月の材料の購入および各費用の支払い状況は次のとおりである。

・材料¥10,000を掛けで購入した。

・賃金¥8,000を当座預金口座から支払った。

・外注費¥2,000は翌月末に支払う予定である。

・経費¥1,500を現金で支払った。

借方科目金額貸方科目金額
材料10,000工事未払金10,000
賃金8,000当座預金8,000
外注費2,000工事未払金2,000
経費1,500現金1,500

工事原価の未払額(材料の購入代金の未払いや賃金・外注費・経費の未払額)は工事未払金で処理します。

MEMO

賃金の未払額は未払賃金勘定を使う場合もあります。

消費した時の仕訳

例題2

当月の工事直接費および工事間接費は次のとおりである。

・購入した材料¥10,000のうち、直接材料費として¥9,000、間接材料費として¥1,000消費した。

・賃金¥8,000のうち、直接労務費は¥5,500、間接労務費は¥2,500である。

・外注費¥2,000はすべて直接費である。

・経費¥1,500のうち、直接経費は¥200、間接経費は¥1,300である。

借方科目金額貸方科目金額
未成工事支出金16,700材料10,000
工事間接費4,800賃金8,000
外注費2,000
経費1,500

材料などを消費したとき(工事現場で使用した時)は、工事直接費は未成工事支出金勘定へ、工事間接費は工事間接費勘定へ振り替えます。

日商簿記との比較

未成工事支出金は「仕掛品」、工事間接費は「製造間接費」と置き換えて考えてください。

工事間接費の配賦

例題3

当月の工事間接費¥4,800を各工事台帳に配賦した。

借方科目金額貸方科目金額
未成工事支出金4,800工事間接費4,800

工事間接費は適当な配賦基準によって各工事(各工事台帳)に配賦しますが、仕訳上はその合計額を未成工事支出金勘定へ振り替えます。

完成した時の仕訳

建設業では工事の完成後、ただちに発注者に引き渡されるので、完成したら未成工事支出金を完成工事原価勘定へ振り替えるとともに完成工事高を計上します。

したがって、このとき未成工事支出金勘定の借方残高は未成工事の原価を意味します

完成工事原価への振替

例題4

当月の完成工事の原価¥15,000を完成工事原価勘定へ振り替える。

借方科目金額貸方科目金額
完成工事原価15,000未成工事支出金15,000
日商簿記との比較

完成工事原価は「売上原価」と置き換えて考えてください。

注意!

建設業では工事の完成後、ただちに発注者に引き渡されるので”売れ残り”(完成品の在庫)といった概念がありません。したがって、製造業における製品勘定に該当するものはありません

完成工事高の計上

例題5

当月の完成工事高は¥20,000であった。なお、この工事の請負代金は翌月に受け取ることとした。

借方科目金額貸方科目金額
完成工事未収入金20,000完成工事高20,000
日商簿記との比較

完成工事未収入金は「売掛金」、完成工事高は「売上」と置き換えて考えてください。

月次損益勘定への振替

例題6

当月の完成工事高¥20,000および完成工事原価¥15,000、販売費及び一般管理費¥1,000を月次損益勘定へ振り替える。

借方科目金額貸方科目金額
完成工事高20,000月次損益20,000
月次損益16,000完成工事原価15,000
販売費及び一般管理費1,000

建設業も製造業と同じく原価計算期間は通常1か月なので、月ごとに損益を計算します。

費目別仕訳法と代表科目仕訳法

上で行った仕訳のやり方(材料費や労務費などの費目別に勘定を設ける方法)を費目別仕訳法といいます。

SHIBUYA
SHIBUYA

みなさんが馴染みのある、いわゆる「普通のやり方」です。

このほかに、費目別に勘定を設けずに購入や支払いをしたときに直接、未成工事支出金勘定に記入する代表科目仕訳法という方法もあります。

代表科目仕訳法によって、一連の仕訳を示すと次のようになります。

購入(支払い)と消費の仕訳

借方科目金額貸方科目金額
未成工事支出金21,500工事未払金10,000
当座預金8,000
工事未払金2,000
現金1,500

代表科目仕訳法では、購入(支払い)したときにすぐに消費したとみなして未成工事支出金勘定の借方に記入します

注意

ただし試験では、材料についてのみ材料勘定を使用する(材料のみ費目別仕訳法)という場合もあるので、必ず問題の指示に従ってください。

完成したときの仕訳

借方科目金額貸方科目金額
完成工事原価15,000未成工事支出金15,000
完成工事未収入金20,000完成工事高20,000

月次損益勘定への振替

借方科目金額貸方科目金額
完成工事高20,000月次損益20,000
月次損益16,000完成工事原価15,000
販売費及び一般管理費1,000
SHIBUYA
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試験では第1問(仕訳問題)は費目別仕訳法、第5問(精算表)は代表科目仕訳法を使用するというパターンが多いですね。