工事収益の計上①~工事完成基準と工事進行基準~

工事収益の認識基準

2つの計上基準

建設業においては収益の認識基準として、工事の進捗度(進行度合い)に応じて工事収益(完成工事高)を計上する工事進行基準と、完成して引き渡しを行ったときに収益を計上する工事完成基準という方法があります。

ボキタロー
ボキタロー

普通の製造業だったら、製品が完成して販売したときに売上を計上するよね?

SHIBUYA
SHIBUYA

そうですね。製造業では製品が完成して、それを販売したときに収益が実現する(収益がほぼ確実になる)ので、製品を引き渡して対価を受け取ったときに収益を計上します。これを実現主義といいます。

ボキタロー
ボキタロー

建設業はまだ工事が完成してないのに収益を計上できるの?

SHIBUYA
SHIBUYA

建設業は注文を受けてから工事を行い、あらかじめ対価の額(請負金額)も決まっているので、完成したものが売れ残るということもありません。このような場合には将来の収益の実現がほぼ確実なので、工事の進捗度に応じて収益を計上できることになっているんです。

MEMO

工事は完成まで何年もかかることがあります。入札の際には完成工事高(売上高)の大きさが会社の評価の1つになるので、完成まで全く収益を計上できないと入札に不利になってしまうことがあります。

ただし、工事進行基準を適用するためには成果の確実性が認められる場合に限ります。成果の確実性が認められない場合は、工事完成基準が適用されます。

成果の確実性とは?

さきほど「収益の実現がほぼ確実」と言いましたが、これを「成果の確実性」といい、具体的には①工事収益総額、②工事原価総額、③決算日における工事進捗度の3つを合理的に見積もることができる場合に「成果の確実性が認められる」ことになります。

日商簿記1級学習者は注意!

日商簿記1級を学習したことのある人は分かると思いますが、工事収益の計上については当サイトで説明しているやり方と少し違います。これは「収益認識に関する会計基準」の影響なのですが、建設業経理士の試験では「当面の間、収益認識基準は出題しないこととする」とされているので、このサイトで説明しているやり方で大丈夫です。

工事完成基準

工事完成基準は工事が完成して引き渡しを行った期に工事収益(および工事原価)の全額を計上する方法なので、完成・引渡しまでの間、収益は全く計上されません。

例題1

次の【資料】にもとづいて、各期(第1期~第3期)の完成工事高、完成工事原価、工事利益を求めなさい。なお、成果の確実性が認められないため、工事完成基準を適用している。また、工事の完成・引き渡しは第3期末に行われた。

【資料】

・請負金額:¥20,000

・見積総工事原価:¥14,000

・実際発生原価:(第1期)¥2,800、(第2期)¥7,000、(第3期)¥4,200

【解答】

第1期第2期第3期
完成工事高0020,000
完成工事原価0014,000
工事利益006,000

工事の完成・引き渡しは第3期に行われたので、第1期と第2期の完成工事高および完成工事原価はゼロとなり、第3期にその全額が計上されます。

MEMO

完成工事高から完成工事原価を差し引いたものが工事利益(完成工事総利益)です。

なお、第3期(完成・引き渡しが完了したとき)の仕訳は次のようになります。

借方科目金額貸方科目金額
完成工事未収入金20,000完成工事高20,000
完成工事原価14,000未成工事支出金14,000
MEMO

「未成工事支出金」は完成までに支出した原価を繰り越してきたものなので、完成・引き渡しが完了したときに「完成工事原価」に振り替えます。

SHIBUYA
SHIBUYA

「完成工事未収入金」は売掛金に相当するものですね。

工事進行基準

工事進行基準は工事の進捗度に応じて毎期、工事収益(および工事原価)を計上します。試験では発生した工事原価の割合によって進捗度を計算する原価比例法が出題されます。

SHIBUYA
SHIBUYA

他に合理的な方法があれば別の方法によることもできますが、試験では原価比例法だけ知っていれば大丈夫です。

例題2

次の【資料】にもとづいて、各期(第1期~第3期)の完成工事高、完成工事原価、工事利益を求めなさい。なお、成果の確実性が認められるため、工事進行基準(原価比例法)を適用している。また、工事の完成・引き渡しは第3期末に行われた。

【資料】

・請負金額:¥20,000

・見積総工事原価:¥14,000

・実際発生原価:(第1期)¥2,800、(第2期)¥7,000、(第3期)¥4,200

【解答】

第1期第2期第3期
完成工事高4,00010,0006,000
完成工事原価2,8007,0004,200
工事利益1,2003,0001,800

第1期

工事の進捗度は、当期までに発生した実際工事原価を見積総工事原価で割って計算します。

工事の進捗度=当期までに発生した実際工事原価¥2,800÷見積総工事原価¥14,000=0.2

注意!

進捗度が割り切れない場合、「工事進捗度の計算上、小数点第〇位以下を四捨五入する」などの指示がある場合も考えられます。

工事収益(完成工事高)は、請負金額に工事の進捗度を掛けて計算します。

完成工事高=請負金額¥20,000×工事の進捗度0.2=¥4,000

SHIBUYA
SHIBUYA

原価が全体の20%発生したので、収益も20%分を計上しようということですね。なお、第1期の仕訳は次のようになります。

借方科目金額貸方科目金額
完成工事未収入金4,000完成工事高4,000
完成工事原価2,800未成工事支出金2,800
MEMO

20%分の工事収益(完成工事高)を計上するとともに、当期に発生した工事原価(未成工事支出金勘定の借方に集計されている金額)を完成工事原価勘定へ振り替えます。したがって工事進行基準の場合、未成工事支出金勘定の期末残高はゼロになります

第2期

まず当期までの工事進捗度によって、第1期と第2期を合わせた工事収益の合計額を計算します。

当期までの進捗度=当期までに発生した実際工事原価(第1期¥2,800+第2期¥7,000)÷見積総工事原価¥14,000=0.7

当期までの工事収益=請負金額¥20,000×当期までの進捗度0.7=¥14,000(第1期+第2期)

上記の工事収益¥14,000は第1期と第2期の合計額です。したがって第2期の完成工事高を計算する場合は、ここから第1期の工事収益¥4,000をマイナスします

第2期の完成工事高=当期までの工事収益¥14,000(第1期+第2期)ー第1期の工事収益¥4,000=¥10,000

借方科目金額貸方科目金額
完成工事未収入金10,000完成工事高10,000
完成工事原価7,000未成工事支出金7,000

第3期

第3期は、請負金額から第1期と第2期の工事収益を差し引いて差額で求めます

第3期の完成工事高=請負金額¥20,000ー工事収益(第1期¥4,000+第2期¥10,000)=¥6,000

借方科目金額貸方科目金額
完成工事未収入金6,000完成工事高6,000
完成工事原価4,200未成工事支出金4,200