支配獲得後の処理1~連結1年度目~【連結修正仕訳】

問題

P社は×1年3月31日にS社の発行済み株式の60%を¥65,000で取得し、S社を支配した。以下の資料にもとづいて、×1年度(×1年4月1日~×2年3月31日)の連結財務諸表の作成に当たって必要な連結修正仕訳を答えなさい。ただし、使用する勘定科目は次の中から最も適当と思われるものを選ぶこと。

諸資産諸負債S社株式
のれん資本金当期首残高資本剰余金当期首残高
利益剰余金当期首残高剰余金の配当非支配株主持分当期首残高
非支配株主持分当期変動額受取配当金のれん償却
非支配株主に帰属する当期純利益

【資料】

1.×1年3月31日のS社の貸借対照表

2.のれんは発生年度の翌年度から10年間にわたり定額法により償却を行う。

3.S社の×1年度の当期純利益は¥10,000であった。

4.当期に、S社は¥3,000の利益剰余金の配当を行っている。




解答

※順番は関係ありません。

投資と資本の相殺消去(開始仕訳)

借方科目金額貸方科目金額
資本金当期首残高60,000S社株式65,000
資本剰余金当期首残高15,000非支配株主持分当期首残高40,000
利益剰余金当期首残高25,000
のれん5,000

のれん:S社株式¥65,000ー子会社の純資産(¥60,000+¥15,000+¥25,000)×親会社持分割合(60%)=¥5,000

非支配株主持分当期首残高:子会社の純資産(¥60,000+¥15,000+¥25,000)×非支配株主持分割合(40%)=¥40,000

のれんの償却

借方科目金額貸方科目金額
のれん償却500のれん500

のれん¥5,000÷10年=¥500

子会社の当期純利益の振替

借方科目金額貸方科目金額
非支配株主に帰属する当期純利益4,000非支配株主持分当期変動額4,000

S社の当期純利益¥10,000×非支配株主持分割合40%=¥4,000

子会社の配当金の修正

借方科目金額貸方科目金額
受取配当金1,800剰余金の配当3,000
非支配株主持分当期変動額1,200

受取配当金:S社の配当額¥3,000×親会社持分割合(60%)=¥1,800

非支配株主持分当期変動額:S社の配当額¥3,000×非支配株主持分割合(40%)=¥1,200

解説

資本連結「四天王」

資本連結における次の4つの仕訳は必ずマスターしてください。4つワンセットで覚えておきましょう。ただし、必ず4つの仕訳が登場するとは限りません。場合によっては必要のない仕訳もあります

注意

純資産の科目に関しては「(当)期首残高」や「当期変動額」を付けない場合もあります。試験では必ず指定された科目を使用してください。

投資と資本の相殺消去(開始仕訳)

まず支配獲得日に行った投資と資本の相殺消去の仕訳を考えて、純資産の科目に「当期首残高」を付ければいいだけです。

投資と資本の相殺消去の仕訳が分からない人は↓の問題を先に解いてください。

MEMO

親子会社である以上は必ず両者の間に資本関係が存在します。したがって、投資と資本の相殺消去の仕訳は必ず必要となります

のれんの償却

のれんは原則として20年以内に償却しますが、試験では問題の指示に従ってください。また、のれんの償却額は「のれん償却」(販売費及び一般管理費)という科目で処理します。なお、「のれん」は無形固定資産なので直接減額します。

MEMO

のれんが生じていない場合は当然のことながらこの仕訳は必要ありません。

子会社の当期純利益の振替

個別財務諸表を合算しただけでは子会社の利益がすべて連結グループの利益になってしまいます。しかし子会社には親会社以外にも資金の提供者(非支配株主)が存在するため、子会社の利益をすべて連結グループの利益(利益剰余金の増加額)とするわけにはいきません。

そこで、子会社の当期純利益のうち非支配株主に帰属する部分については「非支配株主持分」に振り替えます。

また、その金額を「非支配株主に帰属する当期純利益」として親会社株主に帰属する金額とは区別します(連結グループの利益にはならない)。

つまり、連結上の利益剰余金とはならないのでこれをマイナスし、子会社の純資産が増加した分は「非支配株主持分」を増加させる修正を行います。

MEMO

非支配株主が存在しない場合(完全子会社のケース)ではこの仕訳は必要ありません。

子会社の配当金の修正

解答の仕訳は次のように分解して考えることができます。

MEMO

子会社が配当を行っていない場合はこの仕訳は必要ありません。

①親会社に対する配当

借方科目金額貸方科目金額
受取配当金1,800剰余金の配当1,800

S社の配当¥3,000×60%=¥1,800

親会社に対する配当は連結ベースでみると、グループ内で資金が移動したにすぎません。したがって、連結上はこれを取り消す仕訳をします。

注意

連結修正仕訳では連結財務諸表(連結株主資本等変動計算書)上の科目を使って仕訳をするので、「(繰越)利益剰余金」ではなく「剰余金の配当」を使います。ただし「利益剰余金」を使う場合もあるので、試験では問題の指示に従ってください。

②非支配株主に対する配当

借方科目金額貸方科目金額
非支配株主持分当期変動額1,200剰余金の配当1,200

S社の配当¥3,000×40%=¥1,200

利益剰余金当期首残高のうち非支配株主に帰属する部分は開始仕訳によって「非支配株主持分」に振り替えるので、連結ベースでみると剰余金の配当とはなりません。しかし個別上は配当したときに利益剰余金を減少させているため、連結ベースでは利益剰余金を減らし過ぎているということになります。

そこで減らし過ぎている利益剰余金を元に戻して、配当によって子会社の純資産が減少した分についてはこれに対応する「非支配株主持分」を減少させます。