収益認識基準に関する問題3(サービスの提供等)

問題

以下の各問いに答えなさい。ただし、使用する勘定科目は次の中から最も適当と思われるものを選ぶこと。

現金当座預金仕掛品売掛金
クレジット売掛金契約資産買掛金契約負債
売上役務収益仕入役務原価
支払手数料

【問1】次の一連の取引について仕訳を答えなさい。

①当社は出張ネイルサロンを経営しており、顧客の自宅へ訪問し爪の装飾や手入れを行うサービスを提供している。本日、顧客へのサービスを提供したが、この代金20,000円についてはすでに手付金として現金で受け取っており契約負債として処理していた。なお、この顧客の自宅への交通費1,000円は現金で支払った。

②本日、別の顧客に対するサービスの提供を終え、契約額の¥25,000を収益に計上し、代金はクレジットカード払いによることとなった。これに伴って、仕掛品に計上されていた諸費用¥5,000と追加で発生した外注費¥3,000(翌月末に支払う)との合計額を原価に計上した。なお、当社では信販会社への手数料(販売代金の2%)は販売時に計上することとしている。

③後日、②の代金について手数料を差し引かれた残額が信販会社から当社の当座預金口座に入金された。


【問2】次の一連の取引について仕訳を答えなさい。

①当社は日商簿記検定試験の受験学校を経営している。来月に開講予定の簿記2級講座(受講期間1年)の受講料100,000円を現金で受け取った。

②簿記2級講座の教材作成費用15,000円を現金で支払った。この費用はすべて、簿記2級講座のために直接費やされるものであることが明らかなので仕掛品勘定で処理する。

③決算日現在、簿記2級講座は全体の6割が終了しているため、カリキュラムが完了した部分について収益及び費用を計上する。


【問3】次の一連の取引について仕訳を答えなさい。

①×5年12月1日、当社はA社へ市場販売目的のソフトウェアおよび当該ソフトウェアの1年間のサポートサービスを合計900,000 円(うちソフトウェア720,000円、サポートサービス180,000円)で販売し、代金は当座預金へ振り込まれた。当社では、それぞれを別個の履行義務として識別している。サポートサービスは本日より開始しており、時の経過(月割計算)に応じて履行義務を充足する。

②×6年3月31日、決算をむかえサポートサービスのうち履行義務を充足した部分について収益(役務収益で処理)を計上した。また、仕掛品に計上していた役務原価20,000円について、全額を費用に振り替えた。




解答

借方科目 金額 貸方科目 金額
契約負債 20,000 役務収益 20,000
役務原価 1,000 現金 1,000
クレジット売掛金 24,500 役務収益 25,000
支払手数料 500
役務原価 8,000 仕掛品 5,000
買掛金 3,000
当座預金 24,500 クレジット売掛金 24,500

解説

①仕掛品勘定がない場合

サービス業では、サービスの提供が完了したとき(履行義務を充足したとき)に役務収益を計上します。また、サービスの提供に直接要した費用は役務原価とします。

なお、役務原価の計上については、次のようにいったん旅費交通費を計上してから役務原価へ振り替える処理も考えられます。

借方科目 金額 貸方科目 金額
旅費交通費 1,000 現金 1,000
役務原価 1,000 旅費交通費 1,000

しかし、本問では使用できる勘定科目の中に「旅費交通費」がないので、この方法で解答すると不正解となります

MEMO

旅費交通費はサービスの提供とほぼ同時に発生するので、仕掛品勘定を経由する必要性は乏しいと考えられます。

②仕掛品勘定がある場合

サービスの提供が完了した(履行義務を充足した)ので役務収益を計上します。また、仕掛品に計上されていた諸費用¥5,000を役務原価へ振り替えます。

なお、追加で発生した外注費の未払額は主たる営業取引に係る債務なので買掛金で処理します。

解答

借方科目 金額 貸方科目 金額
現金 100,000 契約負債 100,000
仕掛品 15,000 現金 15,000
契約負債 60,000 役務収益 60,000
役務原価 9,000 仕掛品 9,000

解説

①手付金等を受け取ったとき

サービスを提供する前(履行義務を充足する前)に代金を受け取ったときは契約負債で処理をします。

MEMO

前受金勘定で処理することも考えられますが、使用できる勘定科目の中に「前受金」がないので契約負債で処理しなければいけません。

②費用を支払ったとき

支払った費用が、特定のサービスのために直接費やされるものであることが明らかな場合は、その金額を仕掛品勘定で処理します。

MEMO

サービス提供のための費用が、サービスの提供と比較的タイムラグがある場合は、仕掛品で処理をしておくのが適当です。

③決算日

決算日においては、サービス提供の期間や進捗度に応じた収益(役務収益)を計上します。また、役務収益に対応した費用を仕掛品から役務原価へ振り替えます。

・役務収益:100,000円×6割=60,000円

・役務原価:15,000円×6割=9,000円

解答

借方科目 金額 貸方科目 金額
当座預金 900,000 売上 720,000
契約負債 180,000
契約負債 60,000 役務収益 60,000
役務原価 20,000 仕掛品 20,000

解説

①の仕訳

1つの契約の中に複数の履行義務が含まれている場合、履行義務の単位に応じて収益を認識します。本問では、ソフトウェアの引き渡しが「一時点で充足される履行義務」となり、サポートサービスの提供が「一定の期間にわたり充足される履行義務」に該当します。

ソフトウェアについては引き渡したときにその対価を売上に計上しますが、この時点ではまだサポートサービスの提供は行っていない(履行義務を充足していない)ので、サポートサービスの対価は契約負債で処理します。

②の仕訳

4か月分(12月1日~3月31日)のサポートサービスが提供された(履行義務を充足した)ので、この期間に相当する金額を契約負債から役務収益へ振り替えます。

・役務収益:180,000円×4か月/12か月=60,000円

また問題の指示により、仕掛品勘定に計上されている20,000円について、その全額を役務原価に振り替えます。

注意

役務原価は月割計算ではないということに注意しましょう。問題文に指示があれば、必ずその指示を優先させてください。